リアル対話ゲーム、中の人の作り方
リアル対話ゲームとは!?
皆様はじめまして。去年と今年の夏、対話の森で開催されていたリアル対話ゲームで、中の人(キャスト)を務めていた”ぐろ”と申します。
リアル対話?リアル脱出ゲームなら聞いたことあるけど…と思った方へ、まず 2 つの違いをご説明します。リアル対話も脱出と同様の体験型イベントで、参加者はゲームにいくつか挑戦してもらいます。違うのは脱出がゲームから謎を解くヒントや鍵を得て、 ゴールするのを最終目標としているのに対し、対話ではゲームを通じて参加者それぞれの個性や考え方に気づき、最後の対話で更に深くそれぞれの違いを理解し受け入れられるようになることを目指しているところです。
なので、リアル対話ゲームには明確なゴールは存在しません。もっと言うと、体験時間内で新たな知見、価値観を得た参加者が、体験を終えて部屋を出たところから真のゲームスタートになるわけです。
どうです?“対話”の森に相応しい、深~いイベントでしょう!?
しかしこのような体験を提供する為には、当然中の人にも様々な資質が求められます。
リアル対話ゲームのプロデューサーで脚本を担当したヒーローこと大橋弘枝氏は、参加者に気づきを与える仕掛けとして、何らかのマイノリティ性を有する人間をキャストとして採用しました。私もそれに当たる人材として採用されたものの、実は初年度は何をやるのかピンとこないまま応募したところがありました。 いえ、未だかつてない取り組みなのですから、分からなくて当たり前とも言えますが。なんとなく理解できたことは3つで
1つ、車いすユーザー(私)は募集対象に入っている。
2つ、マイノリティとして自己開示出来るかが重要っぽい。
3つ、とにかく新しいエンターテイメントなので、やれば分かるさ!なのだろう。
特に 3 つ目が私にとって訴求力があった部分で、果たして未開の荒野を開拓者精神で切り開いて行くのか、はたまた妖しいネオンに引き寄せられ魔窟を這いずり回る事になるのか。見当がつかないものの、のちに伝説のイベントの初回キャスト!という栄誉を得るチャンスかも?と思ったのです。
そんな下心を持ちながら臨んだ1年目。マイノリティとマジョリティの境界線をグラデーションにして溶かしたい、というヒーローの狙いを体現するキャストとして選ばれたのは 13 人。私のような車いす、低身長など一目で分かりやすいメンバーと、聴覚の障害、LGBTQ、所謂きょうだい児など、一見どこがマイノリティなのか分からないメンバーも混ざり合った、社会的少数者のおもちゃ箱のような構成でした。
この仲間たちとスタートした研修も驚きの連続でした。補聴器を付けていても声でのコミュニケーションがやや難しいメンバーが、実はカラオケが好きとか、リモートで挨拶だけ…とオンライン参加した全盲のメンバーの画面が暗闇の中、顔だけモニターで白く光っているというお化け屋敷状態な件など。私も進行性筋ジストロフィーという、己のマイノリティ性の理解されてない度には自信があったのですけど(笑) 。それよりもずっと認知されていると思っていた障害でも、知らないことだらけであることに気づいた衝撃といったら!
ただキャストに求められているのは、そういう知られざる部分をお客様に伝えることだけではなく、お客様の他者に対する「知りたい」「理解したい」スイッチを押す為にそこを見せてみるという、対話を促す手段としての自分の見せ方も考えないといけない。ダイアローグソサエティジャパンのショーケースである、対話の森で行うイベントですから、ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下DID) や ダイアログ・イン・サイレンスと同様「異なった文化が融合する為の対等な対話(by アンドレアス・ハイネッケ、ダイアログのプログラムの創設者)」が自然に行われるよう、キャストは様々な武器(?)を用意しておかなければいけません。
とまあ、書くのは簡単ですが、これを実践しろとなると大変でして。まず自分とは何者なのか。人はどんな時に漠然と抱えていた思いを言葉に変えることが出来るのか。研修の最初は、キャスト同士で自己開示をしあいながら、自分を改めて知ると同時に、自分の心が「話したい」と動いた瞬間を覚えておくことから始まります。
この土台ができたところで、更にエンターテイメントらしい味付けをする練習、言葉の選び方、共感の示し方など等、髪の毛の先まで神経を研ぎ澄ますような、細部に至るまでの研修が続けられていきます。
因みにヒーローの台本は各部屋の説明や締めの台詞こそあれ、詳細な進行は各自に任された自由度の高いものなので、そこに自分らしさを入れていく作業も必要です。 というのも、キャストにより体験が変わることも、リアル対話ゲームの売りであるからです。
例えば私の場合は相手をドキッとさせる物言いをしがちなのですけど。初年度の「地図を持たないワタシ」では、 キャストは宇宙船の新人乗組員という設定だったので、 多少毒を吐いても大丈夫なように、小生意気なキャラクターという風に落とし込みました。
しかし今年の「囚われのキミは、」になると、舞台は学校でお客様と同級生という設定です。初対面の同級生にいつもの調子では「言葉がきつすぎる」となってしまいます。キャストとして守らなければいけないラインと、自分らしさ。この2つをどう共存させるか、稽古の度に悩みました。モヤモヤしながら帰ったところに、これまた構って貰えなくてイラついているパートナーから、 「それがお前の対話力かッ!」と鬼の首を取ったように言われるんですから!
もし次もキャストを務められることがあったら、私の精神衛生を保つ為に何か車いすで思いっきりぶち当たっていいモノをいくつか用意しておいた方がいいと思っています、はい。
悩んでいたのはこればかりではありません。締めに自分の特性の話を入れようとすると、つい福祉的な話になりがちなところ。
耳を使わないお客様とのコミュニケーションは最も私が不得意な分野で、きちんと手話の形を取れる腕の筋力もなければ、同じく筋力の無さで口の動きも分かりにくい。この状態で他のお客様も巻き込みながら時間内に終わらせる、というのは本当に難しく、デモの度に心が折れそうになっていました。
こんな風に課題は沢山あったので、この際、お客様を部屋に案内しなきゃいけない立場なのに、各部屋のドアが一つとして私が自力で開閉出来る仕様になってない問題なんて大した問題でないと感じたぐらいです。
(今年の「囚われのキミは、」では最終的に手話キャストが一緒に入ることになり、お客様とのコミュニケーションの質が一気に上がりました。)
以上のような、 2 か月で到底解決できなさそうな難題を乗り越えられるよう、 いつも一緒に考え、色んな形を提案し導いてくれたのは、ひとえにヒーロー始めとした演出チームの力。それと互いに模索しながらも励まし合ったキャスト仲間の絆です。あとやはりお客様に逢いたい!今年もお客様と、様々な発見や思いをシェアしたいという強い気持ちが、2 年目のスランプを乗り越えさせてくれたと思っています。
リアル対話ゲームの体験はお客様だけでなく、キャストも成長させてくれるのです。キャストを変えて異なる体験を楽しむ方法もありますが、実は同じキャストでも毎回お客様たちから色々吸収し変化し続けるので、同じではないという部分も魅力だと考えています。まして一緒のお客様の面子も変われば、同じものになることはないのですから。
去年、今年にご来場いただいた方は、うんうんと頷いてくださっているのではと思います。残念ながら 2 年共に逃してしまった方々、これを読んで「しまった!」と思ってくれているかしら(笑)。次、どこかで開催がありましたら、是非遊びに来てください。対話の森の常設である、DIDとの違いなども感じていただけたら幸いです。その時にお会いできることを祈りつつ。